COVID-19：L2～L5戦略と展開への影響

COVID - 19 は、 既存の 課題を浮き彫りにしながら新た に 複雑 な事態を 生み出し た。 自動車メーカーは 投資 と 技術展開 に向 けた 計画 に新たな 舵取り を 強いられている 。

COVID-19の世界的流行は、自動車産業を混乱させ、世界中の工場が操業を停止した。このエコシステムの混乱は、車両生産だけでなく、予算削減と戦略再編成の中心的目標である研究開発（R＆D）と車両技術投資にも影響を与えている。

4月、IHS Markitオートモーティブ・サプライチェーン／テクノロジーチームは、パンデミックがR＆Dに与えた影響を把握するため、全主要地域のOEMおよびサプライヤー幹部を対象に調査を実施した。調査回答者が管理した2019年のR＆D予算は総計700億米ドル以上になるが、今回のCOVID-19は予算削減の可能性を導くことが示唆されている。自動化、完全自動運転システムの開発・テスト・配備を継続するなか、予算の優先順位が変更されることにより、自動運転技術サプライチェーンのあらゆるレベルで、経済の不確実性に対する戦略的な舵取りが模索されることになる。

自動運転の導入

パンデミックにより車両が減少し、コンポーネントが減少し、ビジネスが縮小する。ただセグメントによって影響を受ける要素は異なっている。自動車メーカーとサプライヤーが引き続きL2機能の標準化と供給拡大を優先しているため、同分野は比較的混乱が少ないと予想される。これまでL2テクノロジーはプレミアムブランド、モデル、高機能装備トリム向けに提供されてきたが、非ラグジュアリーブランドがL2高速道路アプリケーションの供給拡大と標準化を優先していることから状況は変化しつつある。

自動運転技術の供給拡大は利便性と安全機能に対する消費者の関心を直接反映しているが、COVID-19がもたらす経済的困難と市場情勢は新機能や技術に対する購入意欲を低下させるかもしれない。変化する市場状況を把握し、車両販売を最大化する方法を探りながら、消費者が要求する安全性と利便性の機能を提供するという課題に向き合うことになる。

L3〜L4機能に対する戦略と期待が見直されるなか、多くのOEMにとってL2+システムはドライバーの表情監視を介した長時間自動運転など開発の中心的存在となってきた。Cadillac Super Cruise、Nissan ProPILOT 2.0などのシステム、2021年に予想されるFord Mustang Mach-Eに導入予定の名称未定のシステムが、L2+テクノロジーがプレミアムブランドやフラッグシップモデルで今後も出続けると予測されている。これははさらに標準市場に浸透していくだろう。

L3の配備、法的責任、コモディティ化に関する法的枠組みの欠如と規制の不確実性により、L2+対応はL3よりもますます好まれる選択肢となっている。予算が厳しくリスク含みの開発計画を持つブランドにとってこの戦略は加速すると考えられる。

市場への導入

現在市場で提供されているL3テクノロジーはないが、一部のOEMやサプライヤーはL3機能を最初に市場に提供しようという意欲を見せている。現在の法的責任と規制環境では不確実性が解決されていないため、こうした野心には追加コストとともに重大なリスクが伴う。Audiは2017年にA8にL3機能を導入しようとしたが、規制が条件付き自動化を支持するまで遅延することを決定し、さらに規制の懸念とモデルのライフサイクルタイミングからA8へのL3機能導入を断念した。L3テクノロジーの市場参入として、BMW iNextと次世代Mecredes S-Classに注目が集まっている。複雑な機能と関連ソフトウェアでは、初期モデル導入時には必須ハードウェアを特徴とし、後にソフトウェアによる機能実現が見られる可能性もある。L3およびL4の開発と展開を継続して行う自動車メーカーとモビリティ事業者では、サプライチェーン全体、特に開発の初期から中期の段階での導入に遅れや影響が生じると予想される。自動運転やLIDARやAVソフトウェアなど未成熟で多額の投資を要する技術は、サプライチェーン統合やより選択的な投資の対象となる。グローバル・サプライチェーンの評価が見直され、自動化および完全自動運転の開発プロジェクトが遅れる可能性もある。

自動化から自律化へ

自動運転に対する消費者の信頼獲得は優先事項であったが、COVID-19は消毒や清潔さなど、消費者が懸念する事項も浮き彫りにした。ロボットタクシーや自動運転サービスは無人運転のため、現在のタクシーや配車サービスよりも安全と見ることができるが、抗菌面などを考慮した材料開発や、ライド間の衛生確保用の追加手順により、開発コストと1ライド当たりのコスト見込みが増加する可能性がある。こうした要因から、L4およびL5の導入がさらに複雑になり、開発、サプライチェーン能力に内在する課題が強調されることになる。

Fordは最近、自動運転サービスの立ち上げを延期した。より多くのリソース、投資の裏付け、マイナス資産運用能力を備えたWaymoなどの非製造系自動運転企業は、ロボットタクシーやドライバーレス・サービス、自動運転技術をできるかぎり安全かつ早期に導入する主要事業計画に従い、開発を推進し意欲的な導入スケジュールを追求している。パンデミックにより多くのAV導入に遅れが生じ、主要なテスト領域でAV研究用車両が脇に追いやられた。研究の中断とリアルタイム交通状況からの学習の欠如は、短期的な導入目標の維持には大きな障害となる。無人輸送サービスや自動運転トラック輸送などの代替ビジネスモデルは投資収益率が高い短期導入モデルと見なされており、さまざまな経済状況下で持続可能なビジネス慣習として浮上してきている。自動運転人員輸送に対する関心と開発は多くの人々の優先事項であり続けるが、COVID-19は商品物流と商用トラック輸送を実行可能な投資の中心軸として提示した。

COVID-19の影響

パンデミックは技術投資に関する課題と実行可能性、投資と技術展開計画のバランスの見直しを迫ることになった。L2テクノロジーとL2+テクノロジーは、安全性と便利な機能に対する消費者の要求を受け入れつつ供給範囲を拡大しているが、成熟度の低いサプライチェーンでより高いレベルの自動化を追求する野心的な計画にはリスクが伴う。財政上の優先事項と制約は業界全体の開発計画の作り直し、つまり混乱と加速を意味する。OEM、サプライヤー、モビリティ事業者は先の見えない状況への対処を求められており、モビリティとテクノロジーの未来はいまだ不透明であるが、革新と再調整の両方に向けたAV展望の成熟が生み出されつつあるともいえるだろう。