米EUのグリーン鉄鋼貿易協定、水素活用への姿勢

2021年11月2日 | Cristina Brooks

米国とEUは、鉄鋼とアルミニウムの生産を促進し、水素を活用した「グリーン鉄鋼」を目指す保護貿易協定への第一歩に動き出した。欧米炭素貿易協定の概要策定に伴い、米国は10月31日にEUからの鉄鋼とアルミニウムに課している特定の関税の撤廃を約束し、EUはその報復関税の解除に合意した。

日本と英国でも同様の協定を協議していると全米商工会議所は述べたが、英国は昨年、鉄鋼メーカーBritish Steelが破綻後、中国の鉄鋼メーカーJingye Groupに買収されている。

ホワイトハウスは世界の鉄鋼市場のリーダーである中国を名指しし「中華人民共和国を含む他の国々からの安価な鉄鋼の洪水」に対抗するため、輸入を取り締まりEUと協力すると述べた。欧州と米国の鉄鋼価格は、ロシア、インド、ブラジル、メキシコなどの市場よりも高く、その差は拡大すると予想されているが、IHS Markitのアナリストによると、エネルギー不足のせいで鉄鋼生産を削減している中国でも鉄鋼価格が上昇している。

一方で、サプライチェーンが制約されるなかでアルミニウム需要が高まっており、その価格が13年ぶりの高値に押し上げられた。IHS Markitのアナリストは、米国でアルミニウム製造コストが上昇し9月に過去最高を記録したことを確認している。

今回の協定は、少なくとも鉄鋼セクターとアルミニウムセクターにとって、Donald Trump前政権にさかのぼるEU-米国貿易論争に終わりをもたらす可能性がある。Trump前大統領は2018年、EUから輸入の鉄鋼に25%、アルミニウムに10%の関税を課す決定を下した。今週合意の協定により、関税は米国貿易拡大法232条に基づいて2018年ルールが可決される前の水準に戻ることになる。法律事務所Mayer Brownによると、たとえば、最大年間トン数(関税割当)を下回る鉄鋼またはアルミニウムの輸入は、この新たな関税の影響を受けない。鉄鋼輸入品が免税資格を得るには、EUで「溶かされ注がれる」必要がある。


グリーン鉄鋼貿易

今回の協定は、グリーンアルミニウムに加え、気候と、水素活用で達成される「グリーン鉄鋼」生産に一役買うものとなる。

米国とEUは、今後2年以内に「(鉄鋼とアルミニウムの)炭素強度に対処するための世界的取り決め」について交渉する予定であり、製品に埋め込まれた排出量に関するデータの共有方法を議論するワーキンググループの立ち上げから始める。こうした交渉はまた、生産に関連する炭素強度基準につながる可能性もある。

またEUと米国は、低炭素鋼のための「貿易防衛規則」を設定し「志を同じくする他の経済圏の参加を奨励する」と述べている。

さらに米国は「低炭素強度の鉄鋼とアルミニウムの生産を支援する国内政策」で米国の低炭素鋼生産に対する報奨の開始を望んでいる。これが補助金の形になるかどうか声明では言及されていないが、米国の高価格鉄鋼を購入する米国の製造業者に「救済」を提供するようだ。

つい最近の6月、スウェーデンの鉄鋼メーカーSSAB、発電業者Vattenfall、国営鉄鉱石採掘業者LKABが、石炭とコークスによる酸素除去に代わってグリーン水素を使用し、化石燃料不使用のスポンジ鉄を世界で初めてパイロット規模で生産したことを発表した。

製鋼プロセスで使用される石炭とコークス、その他の部分は、世界の人為的CO2排出量の約7〜9%を占めるセクターの排出量に寄与している。アルミニウムは排出量の約2%を占めている。


米国の炭素国境関税の可能性

すでに存在している世界的なグリーン鉄鋼イニシアチブに、非営利団体The Climate Groupが発足させたSteelZeroがある。2020年、このイニシアチブの下でメーカー各社は2050年までに100%ネットゼロ鉄鋼を調達または備蓄するという自主誓約を設定した。The Climate Groupは、SteelZeroがこの種のグリーン鉄鋼イニシアチブとして「世界初」のものであり、投資と政策に大きな影響を与える可能性があると述べている。

欧州の鉄鋼業界は、EUが気候政策の「最前線」であることに留意しつつ、今週発表された協定による保護の拡大を歓迎している。欧州鉄鋼協会のAxel Eggert会長は「これは世界の貿易の歪みと気候変動に取り組む新たな欧米パートナーシップの出発点となる可能性がある」と述べている。

米国鉄鋼協会は米EU共同協定を支持し、高炭素輸入品に対する関税を法制化する「実効的炭素国境調整措置」を勧告した。EUでは炭素国境関税の取り組みも進めており、EUの立法機関はアルミニウムや鉄鋼などエネルギー集約型金属の輸入に対する関税を検討している。


掲載日:2021年11月2日 執筆者:Cristina Brooks(IHS Markit 気候および持続可能性グループ シニアジャーナリスト)

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