各国の排出削減誓約は十分?

2021年10月25日 Kevin Adler

炭素排出量削減に向けた各国の誓約が相次いで表明されているが、国際エネルギー機関や国連環境計画(UNEP)等の組織が実施した世界の気候変動対策に対する分析は、こうした誓約が地球温暖化を1.5℃に抑制するよう義務付けたパリ協定で求められるレベルにはまだはるかに及ばないことを示唆している。

この2年間で合計70ヵ国以上が、パリ協定に基いてさらに野心的に更新されたNDCを提出している。しかしながら一部の国の公的声明と私的声明に相違があることについて、グリーンピースの代表者は「一部の国による環境配慮を装う大々的な言動は非難される必要がある」と述べた。グリーンピースは文書をメディアにリークした。世界気象機関(WMO)は10月25日の報告書でさらに踏み込んで、大気中のCO2濃度が2020年に413.2 ppmに到達し過去最高値となったことを報告した。CO2濃度は、産業革命前の水準の149%となっている。昨年の増加量は2.5ppmで、2011年から2020年までの平均年率2.4ppmを少し上回った。WMOによると、メタンは1750年の水準の262%、亜酸化窒素は123%で、いずれも2019年から2020年にかけて10年間平均を超える増加率を示した。「COVID-19による景気減速は、温室効果ガスの大気中濃度とその増加率に対して目に見える影響は与えておらず、新たな排出量は一時的に減少した」とWMOは述べている。


新たな誓約の表明

今もなお、ネットゼロ排出達成の誓約は相次いで提出されており、COP26開催期間中はさらに多くの誓約表明があるものと見られる。NDC登録簿によると、10月23日のサウジアラビアによるネットゼロの発表を含め、10月に更新された誓約は28となった。サウジアラビアが発表した2060年ネットゼロ目標は、湾岸諸国からの最初の提出となったアラブ首長国連邦(UAE)の10月6日発表の2050年ネットゼロ目標に続いて発表され、同日には国営石油会社であるSaudi Aramcoと国営石油化学会社であるSABIC両社が、スコープ1および2の排出量について2050年ネットゼロ目標を発表した。サウジ通信社によると、同国の2019年の排出量はCO2相当で約5億メートルトン(mt)だったという。

カタールがすぐにリストに加わることはなさそうだ。10月中旬に開催されたあるエネルギー会議でのスピーチでSaad Al-Kaabiエネルギー大臣は、「表立って2050年ネットゼロと言えば注目を浴びられるだろうが、それは正しいことではないと私は思う」と述べた。世界第2位のLNG輸出国であるカタールは、移行燃料として天然ガスに賭けている。Al-Kaabi大臣は、排出削減に対するLNGの貢献は、その生産、処理、出荷に関わる炭素強度の削減を通じてもたらされる、と言う。2050年にはガスが世界の資源構成の25%、30%、あるいはそれ以上になると示唆している、と同大臣は会議で聴衆に語った。そして電力需要の伸びが予想を上回った今夏のガス価格の高騰は「計画もしないで急ぎ過ぎると、最終的に十分な成果が得られない」と述べた。

世界第4位のLNG生産国であるマレーシアも2050年ネットゼロの時流に加わった。同国は更新版NDCで石炭火力発電所建設の停止を表明している。7月に更新されたマレーシアのNDCは、経済全体で2030年までに炭素強度を2005年と比較して45%削減することを目指している。

トルコは10月にネットゼロ誓約国に加わり、目標を2053年に設定した。当局は再生可能エネルギーによる発電量を2025年までに電力調達の31%に増やし、炭素税などのインセンティブでセクターを前進させると述べたが、このの誓約には異議が唱えられた。ている。Climate Action Network Europeと関わりがあるEkosfer Associationによると、トルコのエネルギー省は炭素ネット排出量が現在の4億2,200万トンから2030年には約9億3,000万トンに倍増すると予測しており、目標達成に向けてどのような方法で急速に排出削減するつもりかを説明していない、とEkosferは指摘している。


約束を方針と行動に

EUと米国が更新版NDCの誓約を立法と資金調達に変えるという課題に取り組んでいる一方で、韓国は9月にNDC目標を達成するための法律を可決した。「気候危機対応法」は、2030年までに国のGHG排出量を2018年のレベルと比較して35%削減することを義務付けている。これを補足する形で、2030年までに40%削減の達成を模索するための報告書が10月20日に発行された。ビジネスグループや環境グループは懸念を表明している。韓国環境運動連合(KFEM)は、この計画に含まれているのは「不十分な目標と不確実な気候危機回避手段」だと述べた。

COP26を主催する英国は、2050年までのネットゼロ達成の方法について10月19日の文書で詳細を発表した。 そこには、電気自動車(EV)の迅速な採用、ヒートポンプの使用、家庭の電動化が含まれている。このプログラムは、住宅および商業ビルの改造向けの39億ドル超と、EV購入への助成金とEV充電インフラに対する支出の10億ドル近くを含んでいる。Johnson首相はホスト国のリーダーとしての自らの役割を利用し、サウジアラビアとインドの両方に、COP26またはそれ以前にネットゼロの誓約を提出するよう公に促した。Sharma議長は10月12日のパリでの演説でG20の「ドナー国」と呼ぶ国々からGHG削減と気候適応の支援向けに年間800億ドル以上が他の国に約束されており、数年前に設定された目標の1,000億ドルに近付こうとしている、と述べた。

Johnson首相とSharma議長の声明は、炭素排出量の大部分を占めてきた裕福な国々と同等レベルの犠牲をそのほかの国々も払わなければならなくなる、と解釈された。24ヵ国のグループが10月18日に閣僚声明を発表しSharma議長とJohnson首相を糾弾した。1992年の京都議定書にさかのぼる「約束の破綻の歴史」に言及、2014年までに拘束力のある排出目標を提出するという先進国による2012年のドーハでの約束や、1,000億ドルの気候資金誓約の達成の遅れもそこに含まれる、とした。「先進国が合意した約束を果たさないというこれらの失敗は、多国間システムへの信頼と自信を損なう」と、中国、インド、インドネシア、パキスタン、サウジアラビア、ベトナムを含む同志発展途上国の声明は述べている。

掲載日:2021年10月25日 執筆者:Kevin Adler(IHS Markit 気候および持続可能性グループ エディター)

{"items" : [ {"name":"share","enabled":true,"desc":"<strong>Share</strong>","mobdesc":"Share","options":[ {"name":"facebook","url":"https://www.facebook.com/sharer.php?u=http%3a%2f%2fihsmarkit.jp%2finfo%2fmore-national-emissions-pledges-arrive-pre-cop26.html","enabled":true},{"name":"twitter","url":"https://twitter.com/intent/tweet?url=http%3a%2f%2fihsmarkit.jp%2finfo%2fmore-national-emissions-pledges-arrive-pre-cop26.html&text=%e5%90%84%e5%9b%bd%e3%81%ae%e6%8e%92%e5%87%ba%e5%89%8a%e6%b8%9b%e8%aa%93%e7%b4%84%e3%81%af%e5%8d%81%e5%88%86%ef%bc%9f+%7c+IHS+Markit","enabled":true},{"name":"linkedin","url":"https://www.linkedin.com/sharing/share-offsite/?url=http%3a%2f%2fihsmarkit.jp%2finfo%2fmore-national-emissions-pledges-arrive-pre-cop26.html","enabled":true},{"name":"email","url":"?subject=各国の排出削減誓約は十分? | IHS Markit&body=http%3a%2f%2fihsmarkit.jp%2finfo%2fmore-national-emissions-pledges-arrive-pre-cop26.html","enabled":true},{"name":"whatsapp","url":"https://api.whatsapp.com/send?text=%e5%90%84%e5%9b%bd%e3%81%ae%e6%8e%92%e5%87%ba%e5%89%8a%e6%b8%9b%e8%aa%93%e7%b4%84%e3%81%af%e5%8d%81%e5%88%86%ef%bc%9f+%7c+IHS+Markit http%3a%2f%2fihsmarkit.jp%2finfo%2fmore-national-emissions-pledges-arrive-pre-cop26.html","enabled":true}]}, {"name":"rtt","enabled":true,"mobdesc":"Top"} ]}