COP26:20カ国以上がゼロエミッション航路開発を誓約

2021年11月10日 | Max Tingyao Lin

22ヵ国のグループが、排出削減が最も困難なセクターの1つである海上輸送の脱炭素化に向け、今後数年間で排出ゼロの海運回廊を作り出すことを誓約した。

クライドバンク宣言の署名国は、船舶がゼロエミッション燃料にアクセスできる、少なくとも6つの海上貿易レーンを2025年までに実証ベースで確立した後、航路の増加や長距離化、あるいは同じ回廊内の船舶の増加に向けてスケールアップすることを目指している。

「2030年までにさらに多くの回廊の稼働を見ることが我々の願いだ」と署名国は11月10日にCOP26で発表された宣言の中で述べた。

この新たな連合は、海運セクターを2050年までのゼロエミッション達成に向けた軌道に乗せることを目指し、デンマーク、ノルウェー、米国が7月に立ち上げたZero-Emission Shipping Mission(ZESM)を補完する。

これら3ヵ国は、クライドバンク宣言の署名国であるオーストラリア、ベルギー、カナダ、チリ、コスタリカ、フィジー、フィンランド、フランス、ドイツ、アイルランド、イタリア、日本、マーシャル諸島、モロッコ、オランダ、ニュージーランド、スペイン、スウェーデン、英国と協力してきた。

2030年までに、少なくとも200隻のゼロエミッション船を運航させ、世界の遠洋貿易におけるバンカー燃料消費量に対するそれら船舶のシェアを5%にするというZESMの暫定目標達成に、グリーン海運レーンが貢献することを期待している署名国もある。

低排出燃料のサプライチェーンはまだ大規模な開発が進んでいないため、多くの人々がこれらを困難な課題と見ている。アンモニアとメタノールを動力源とする最初の遠洋貿易向け船舶の進水は、早くても2〜3年後になると予想されている。

COP26のイベントで英国のRobert Courts海運大臣は、2050年目標を実現するには各国政府が民間企業と提携し実証プロジェクトを今すぐ開始する必要がある、と言う。

「クライドバンク宣言は各政府に港間のゼロエミッション航路確立を奨励するための枠組みを提供する」とCourts大臣は言う。「この宣言は、業界が自信を持って研究に投資し、こうした(脱炭素)技術を開発するための出発点だ」。

デンマークのBenny Engelbrecht運輸大臣は、署名国の最終目標はゼロエミッション船をフリート刷新時の既定選択肢にすることだ、と言う。

「前に進むために…我々は、政策立案者と業界にゼロエミッション海運が実現可能であることを示す実証プロジェクトを立ち上げ(スケールアップする)必要がある」とEngelbrecht大臣は重ねて述べている。


成功の基盤

150以上の銀行、船主、コモディティ企業、燃料サプライヤーによって設立された「Getting to Zero Coalition」は、グリーン回廊を作るには政策支援と低排出燃料へのアクセスが必要だと示唆している。

同連合が11月10日に発表した研究では、2つのゼロエミッション海運レーンの可能性が強調されている。オーストラリアが2030年までに計画している電解槽容量29GWのオーストラリア-日本間鉄鉱石ルートと、2030年までに欧州と中東で準備が整う予定の電解槽容量33GWのアジア-欧州間コンテナルートである。

この研究に携わるGlobal Maritime ForumのJohannah Christensen CEOは、公共部門と民間部門の関係者は初期段階では規模の経済を過剰に気にするべきではない、と言う。

「グリーン回廊のアプローチが調整を容易にする。回廊は需要と供給を大きな規模で発展させるのに十分な大きさだが、特定条件に合わせて政策やビジネスモデルを調整できる程度には小さい」とChristensen氏は述べている。

世界経済フォーラムが支援するMission Possible Partnershipの共同常任理事であるFaustine Delasalle氏は、ゼロエミッションバンカー燃料は最初のグリーン回廊の石油ベース燃料よりもまだ25%〜65%高いと言う。

「回廊のコストギャップを埋めるためのターゲットを絞った政府行動が、移行全体に大きな利益をもたらす」とDelasalle氏は重ねて述べている。このパートナーシップも先述の研究に貢献している。

UCL Energy Instituteの海運担当准教授であるTristan Smith氏は、低炭素燃料のコストが下がり始めるまでには各国政府が「数億ポンド」を実証プロジェクトに投入する必要があると指摘する。

「必ずしも完全な助成が必要なわけではないが、本当に必要になるのは官民連携で機能する政府資金だ」と同氏は重ねて語った。

国連ハイレベル気候チャンピオンの海運リーダーであるKatharine Palmer氏は、政府はまずグリーン貿易レーンで協力する船主、貨物オーナー、バンカーサプライヤーを認定する必要があると言う。

「誓約を実現する重要な役割を担っているのは業界だ…エコシステムを支え、その実現を可能にする」とPalmer氏は述べている。


さまざまな見方

海運業界では、このイニシアチブにより低炭素バンカーサプライチェーン開発にようやく弾みがつく可能性があると述べ、クライドバンク宣言を歓迎する人々もいる。

デンマークの海運グループA.P. Moller-Maerskの脱炭素化責任者であるMortenBo Christiansen氏は「我々は、運航業者として誰もが頼りにでき、他社と実際に協力できる、このグリーン回廊を目にすることができて嬉しく思う」と述べている。

貿易グループBIMCOの副事務総長であるLars Robert Pedersen氏は、署名国はおそらく数隻の船舶がグリーン燃料で運航可能な個々の貿易の促進に協力するだろう、と述べる。

「これは、世界に拡大可能な商業的取り決めの試行を目的とした一種のサンドボックスタイプの取り決めであり、優れた可能性を秘めている」とPedersen氏は述べている。

Lloyd’s RegisterのNick Brown CEOは、このイニシアチブがゼロカーボン燃料用の最初の陸上給油施設の建設に最適なロケーションを見つけるのに役立つことを期待する。

一方で環境保護団体は、宣言は具体的な脱炭素目標に欠けており、パリ協定の気候目標と一致していない、と指摘する。

「具体的な行動が乏しく、拘束力がない」とTransport & Environmentの持続可能海運担当官であるJacob Armstrong氏は言い、「必要なのは脱炭素化のための具体的ロードマップであり、野心的な目標ではない...問題は『グリーン』回廊が何を意味するのか明確ではないこと、ガバナンスがないこと、そして強制力がないことだ」と述べている。

地球温暖化を産業革命前の水準から摂氏1.5度上昇までに制限するには、今後8年間でGHG年間排出量を45%〜50%削減する必要がある、と国連の科学者たちは指摘する。

Seas at Riskの上級政策アドバイザーであるJohn Maggs氏は、「脱炭素化された海運業界に向けた前進に役立つものは何でも歓迎するが、この宣言は我々が求めているような大きな進展ではない」と言う。

「これが2030年に(バンカー燃料構成における)ゼロエミッション燃料シェア5%という結果をもたらしたとしても、海運が十分な役割を果たすために必要なものからそれでもなお100万マイルも離れているだろう」と同氏は重ねて述べた。


政策の議論

国連加盟国は概して、COP交渉ではなく国際海事機関(IMO)が海運に関する詳細な排出規則を打ち出すことを支持している。

IMOは2018年、国際海運からのGHG排出量を今世紀半ばまでに2008年水準と比較して半減させるという目標を設定した。この目標は2023年までに見直しの予定である。

国際海運会議所を含む業界関係者からは、2050年以前のネットゼロ排出達成への目標引き上げを求める声が高まっている。

11月22日〜26日に開催されるIMOの第77回海洋環境保護委員会では、マーシャル諸島とソロモン諸島からの共同提案で2050年までに海運からの排出を絶対ゼロに削減することについて議論される。コスタリカ、日本、ノルウェー、英国、米国はネットゼロ代替案を提案することになる。

米国のPete Buttigieg運輸長官は、「現時点で世界が持っている最も重要なツールの1つが国際海事機関だ。ただし気候危機の文脈では、気候変動の野心は現在の水準からさらに進む必要がある」と11月10日のCOP26で述べた。


掲載日:2021年11月10日 執筆者:Max Tingyao Lin(IHS Markit 気候および持続可能性グループ プリンシパルジャーナリスト)

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