自動車用ガラスの成長をけん引するパノラマルーフ

2020年9月1日

大型サンルーフが車載ガラスの需要を増大させる一方で、スマートガラス、ガラス内ディスプレイ技術がサンルーフをより機能的でインタラクティブなコンポーネントにしていくだろう。ガラスメーカーはグレージング技術をガラスが維持できるよう、軽量ソリューションを開発する必要がある。

車載ガラスは何年間も技術的変化のない部材の1つと見なされていたが、今やガラスはユーザーインターフェイスとユーザーエクスペリエンスの向上に重要な役割を果たすことを期待されている。他のコンポーネントと同じく、車載ガラスも新たなメガトレンドの要件に対応するために前例のないペースで進化を遂げると予想されている。アプリケーション数の拡大に加え、手頃な価格セグメントからのサンルーフ需要の高まりにより、従来分野での成長も期待されている。IHS Markitのデータによると、世界の車載ガラス市場は健全な成長率を見せており、2025年までに227億米ドル規模に到達、2020〜25年のCAGRは4.2%になるとと予測されている。

パノラマルーフとスマートガラス技術

パノラマルーフ装備の増加は、車載ガラスの主要な成長要因だ。パノラマルーフは一枚のガラス面から構成されるサンルーフよりも格段に大きくなる。IHS Markitではパノラマルーフ市場は、2020年から2025年の間にCAGR 5.2%で成長すると予測している。固定パノラマ、パノラマフローティングルーフ、パノラマフルガラスルーフ、パノラマチルトルーフなど、自動車にはさまざまなパノラマルーフ技術が見られる。パノラマフローティングルーフが最も人気があり、長期的にもその傾向が続くだろう。当社では2026年のパノラマルーフ市場の73%近くをパノラマフローティングルーフが占めると予測している。全体としてパノラマルーフが2025年のサンルーフシステム市場全体の62%以上を占めるだろう。フロントガラスのサイズも大きくなり、自動車はより開放感のある広々としたものになっている。最近では、パノラマフロントガラスで最も人気のある車であるTesla Model Xをみても、他モデルと比較してはるかに大きなフロントガラスを装備していることがわかる。

パノラマルーフ需要が高まる中、スマートガラスやスイッチ機能付きのガラスなど新たな技術も登場している。スマートガラスによって乗員はボタンに触れるだけで、ガラスを透明に、暗く、または完全に不透明にすることができる。また透過する熱の調整も可能だ。2枚のガラスの間に入れる液晶フィルムを使用し、電気液晶を整列させて光と熱を通したり、電気を遮断して光を遮断することもできる。この技術は、各国の規制に応じてサイドウィンドウとリアウィンドウに使用できる。フロントガラスに使用して太陽のまぶしさを避けるために特定箇所に色を付けることもできる。さらに車内の温度を最適に保ち空調負荷を軽減することで、車両エネルギー効率の向上にもつながる。EVでは暖房、換気、空調(HVAC)システムに送られるバッテリー電力が少なくなるため、走行距離にプラスの影響を与える可能性がある。

パノラマルーフとスイッチングガラス技術は最近までハイエンドモデルに限定されていたが、すでに下位セグメントにまで細流化し始めており、短長期的にも実装率があがりそうだ。2020年6月、AGCがトヨタ新型ハリアーのパノラマルーフ用にWONDERLITE Dxと呼ばれる調光ガラスを開発した。車載ラミネートガラスの中間層間に封入された特殊なフィルムで構成されており、透過モードと減光モードの両方で紫外線(UV)の約99%を遮断する。「量産ではこの製品が世界初の採用」(AGC)。

米国に拠点を置くサプライヤーのGentexも、サンルーフ、バイザー、サイドウィンドウ、ピラーディスプレイ用の調光ガラスシステムを開発している。Gentexは航空機で培った経験をもとに自動車分野への展開を狙う。CES 2020では調光可能サイドウィンドウ、完全統合型調光可能フロントガラスバイザーのほかあ、車内に入る前に充電ステータスやタイヤ空気圧、セキュリティシステム通知などの情報を表示できる革新的なピラーディスプレイを展示した。

今年初めには、Appleが車載スマートガラスの特許を米国特許商標庁に申請したと報じられた。この特許は「調整可能な色合い層、調整可能な反射率層、調整可能なヘイズ層などを有するウィンドウ層で、1つまたは複数の透明な構造層を持つウィンドウに組み込むことができる」という。

ガラスは、エンターテインメントから情報発信に至るまで使用され、完全自動運転への移行において重要な役割を果たすことが期待されている。大画面とヘッドアップディスプレイ(HUD)を備えた高解像度(HD)ディスプレイの使用が増加しているなかか、例えば完全自動運転車ではフロントガラスとドアウィンドウを乗員用ディスプレイとして、また他の道路利用者のための警告信号や広告の目的でも採用することさえ可能になる。

軽量化問題

現在、車両1台あたりの平均ガラス使用量は約160ポンド(72 kg)である。パノラマフローティングルーフでは、ガラス含有量がほぼ2倍になることがある。さらに天井材と重いガラスの動きのために追加装置も必要だ。サンルーフシステムの重量削減のためにサンルーフより薄くて軽いガラスを使用し始めた例もあったが、運転中にサンルーフガラスが破損したケースがいくつか発生して安全性の問題が浮上した。一部の自動車メーカーでは強化ガラスの代わりに合わせガラスを使用するようにもなっている。合わせガラスはサンドイッチ構造になっており、主にポリビニルブチラール(PVB)の樹脂層が両側の2層のガラスと融合している。衝撃が加わった場合、強化ガラスは小さな鈍い破片に壊れ、鋭利ではないため安全上のリスクはない。合わせガラスははるかに強力であり、事実上破損しない。合わせガラスのサンルーフは信頼性がより高く、車両が横転した場合に乗客が投げ出される可能性を最小限に抑える。合わせガラスは強化ガラスと比較して優れた遮音性と断熱性も備えている。

ガラスメーカー各社は、自動車に使用されるガラスの厚さを削減するためにさまざまな技術を採用している。米国を拠点とするCorningは、薄い内側の層と厚い外側の層(非対称スタックとも呼ばれる)を備えたウィンドウラミネート構造に取り組んできた。これは軽量化と明瞭度、強度のベストな組み合わせを提供し、Jeep Wrangler JK向けのCorning Gorilla Glass製Mopar Windshieldに使用されている。「車載ガラスには大幅な軽量化の可能性がある。従来のフロントガラスは各2.1 mmの厚さのソーダ石灰ガラスの2つの厚い層で構成されてきた。外側の層として2.1 mmのソーダ石灰ガラスを、内側の層として0.7 mmの厚さのGorilla Glassを含むより薄いラミネート構造を使用すると、ウィンドウ重量を最大30%削減できる。車両のすべてのウィンドウをこの薄い非対称構造に置き換えると、一台につき最大40ポンド削減できる可能性がある」とCorning Automotive Glass Solutionsの自動車外装部門の事業ディレクターであるKevin Morgan氏はIHS Markitに説明した。

すべての自動車用フロントガラスには合わせガラスが必須だが、ドアウィンドウやバックライトガラスはほとんどが強化ガラスだ。メーカー各社は優れた断熱特性により、ハイエンドモデルのウィンドウとバックライトを合わせガラスへと切り替えて始めている。合わせガラスは強化ガラスよりも高価であるため、短期的にはプレミアムセグメントに限定された状況が続くと予想される。

ポリカーボネート・グレージング

ガラス業界では、さらなる軽量化を図るために、ポリカーボネート(PC)グレージング(ガラスウィンドウ)の選択肢も検討している。PCグレージングは、パーツのサイズにもよるが、ガラスよりも最大50%軽い。また事故が発生した場合でも破損しない。PCグレージングがガラスよりも優れているもう1つの利点は、メーカーにもたらされる設計の自由度である。PCの高い成形性により、ガラスでは不可能な複雑な新形状の設計が可能になり、高い遮音性と断熱性を提供する。ウィンドウにPCグレージングを装備した量産車には、Buick GL8ミニバンやsmart FourTwoハッチバックなどがある。

PCグレージングの利点は以前から知られていたが、車載用途での採用はあまりみられず、主にヘッドランプとテールランプのカバーと一部モデルの三角窓に限定されているくらいだ。これは高コストと紫外線に対する高感度が理由だ。紫外線に曝されることで、PCグレージングは経年劣化する。パーツの美観に影響を与えるスクラッチに対する耐性も低い。コストが量産車での使用を妨げる一方、UVとスクラッチの感度がプレミアムセグメントでの使用を制限している。雪氷対策に必要な発熱体をウィンドウやバックライトに使用する場合の伝熱性もあまり良くない。

こうした課題を克服する技術も登場した。SABICやCovestroといったサプライヤーは、PCグレージングの欠点を克服するコーティングを開発している。例えばSABICは、LEXAN樹脂を使用したグレージングシステムにウェットコートとプラズマコートのサポートを提供している。ウェットコートソリューションは、太陽光のUV暴露、スクラッチ、摩耗から保護する。一方でプラズマコート技術は、ウェットコートの上にガラスのようなコーティングを施し、耐候性と耐摩耗性を提供する。耐スクラッチ性能のあるPCグレージングは、フロントガラスのPCへの交換を規制で許可されている自動車レースでも確立されている市場である。

規制も関係する。多くの国ではフロントガラスに合わせガラスを使用し、その他のグレージング用途に安全ガラスを使用することを義務付けている。2015年、欧州ではフロントガラスを含む車両全体のグレージング用途でのプラスチック使用が許可された。これは自動車メーカーに軽量化のための追加オプションを提供する。サイドドア・ウィンドウへのPCガラス使用は、その壊れにくい特性ゆえに事故の際に乗員を引き出すのが非常に難しくなるゆえ推奨されないが、高度なPCグレージングは自動車のHDディスプレイ、特に曲面ディスプレイで重要なアプリケーションを見出す可能性があるだろう。

展望

ガラスが安全性と快適性の要件を満たし、推奨されるグレージング技術要素であり続けることが期待されている。PCグレージングは自動車分野でガラスに挑戦状を叩きつけたが、短中期的にガラスの市場シェアに大きく食い込むことは予想されていない。パノラマルーフ装備の増加に伴い、健全な事業成長が見込まれ、先進ガラスなどの新技術は太陽光ブラインドや天井材さえも不要にすることで軽量化を促進する。特に自動運転車の登場により、スマートガラスとガラス内ディスプレイは、将来的にガラスをより機能的でインタラクティブな技術にするだろう。

「自動運転は毎日の通勤を体験へと変える。ドライバーはハンドルから解放され、ディスプレイや車内の表面(ウィンドウ表面など)を操作する機会が増える。ガラスは、ウィンドウガラスにスマートフィルム技術を使用しインタラクティブな表示領域を追加できるようにするための役割を果たし続ける。車載統合インフォテインメントシステム全体のカバー素材としてのガラスの使用は、自動車用途におけるガラスの本物の感触とタッチ感度が、消費者がモバイルコンシューマーエレクトロニクスデバイスで慣れ親しんでいるものを模倣するとともに、進化し続けるだろう」とMorgan氏はIHS Markitに語っている。