新モビリティの約束

2020年2月17日 ― AutoIntelligence - 戦略レポート

初期の誇大宣伝に続いた規制とテクノロジー統合のペースが遅れ、ライドヘイリングの展開が鈍化した。使用事例の観点から自動運転(AV)は、固定ルートおよび可変ルートのAV、ラストマイル用商品配送AV、商品トラックAV、無人のライドヘイリング(ロボットタクシー)、個人用AVの5種類に分類できる。Society of Automotive Engineersによると、自動化はレベル0〜5にランク付けでき、レベル4およびレベル5のみが車両と人間との相互作用を必要としない高度または完全な自動化レベルである。レベル4ではドライバーが自動化システムを手動で無効化し車両を制御するオプションがあるが、レベル5では人間の運転が完全に排除される。


AVの課題

政策と規制

AVは多くの法的障害に直面している。米国では運輸省道路交通安全局(NHTSA)が自動運転車の安全基準の対処法を3年超にわたり追求してきたがその進展は予想よりも遅れている。2019年、米国連邦議会は自動運転の法律制定作業を再開した。下院エネルギー・商業委員会と上院商業委員会は、自動運転の加速を支援する「自動運転法案開発のための超党派および二院制の基盤」に取り組んでいる。委員会から提案された法案は2017年に満場一致で可決されたが、昨年多くの民主党員が自動運転配備の安全性に疑問を呈したために行き詰まった。米国の多くの州は公道での自動運転を許可していないが、フロリダ州政府は最近、企業が人間のドライバーなしで自動運転車をテストすることを許可した。これはGeneral Motors(GM)とAlphabetの自動運転部門Waymoに利益をもたらす。AVのルールはどの州も同じというわけではなく、絶えず進化している。

道路上のAVの大半は、パイロットプログラム用にAV技術が組み込まれた従来型の車両で、規制が「専用」AV車両の生産規模を阻害している可能性がある。ほかにもさまざまな規制があり、全米州議会議員連盟(NCSL)によると2019年10月の時点でAV関連の法律を制定したのは29州だけであり、この他11州がAVに関連する行政命令を発行している。州間ルートを走行する自動運転車両は州規則すべてにシームレスに準拠する必要がある。中国では地方自治体に公道走行許可を申請する前に、閉鎖環境での走行テストと第三者による認証を受けなければならない。欧州ではウィーン条約で運転手による車両制御を求めている。2018年9月、国際連合経済委員会(UNECE)は、「高度かつ完全に自動化された」車両の公道走行に関する拘束力のない決議を採択した。

IHS Markitでは、米国、欧州、中国での自動運転ライトビークル販売が、2018年のゼロから2030年にはベースケースであるRivalry(競争)で200万台に、代替シナリオであるAutonomy(自律)で600万台になると予測している。

保険賠償も課題だ。非自動運転状態からドライバー支援システムおよび完全自動運転に移行するに従い、賠償責任が消費者から自動車メーカーに移行する可能性がある。Volvoなどのメーカーは自動運転技術によって事故が発生した場合の賠償責任の受け入れに同意している。さらにセンサーとカメラを介したデータの所有権問題がある。車両購入時に自動車メーカーに運転データの所有権が与えられる可能性がある。


技術とコスト

フランスの自動運転メーカーNAVYAの経験は、AV技術の成功には大きなハードルがあることを示している。NAVYAのAVの採用と販売は減少している。2019年の売上高は前年比21%減の1,500万ユーロ(1,650万米ドル)で、完全自動運転の電気版AUTONOM Shuttleの販売台数が前年比32%減となったためである。2019年、NAVYAはコックピット、ハンドル、ペダルを備えていないAUTONOM Cabロボットタクシーの試作品を1つだけ販売し、サービスから生み出された同社の収益は前年比26%増の290万ユーロに達した。最大の市場である米国で、2019年の販売台数は22台だったという。欧州では規制当局から2年以内に安全ドライバーなしで自動シャトルを配備するための承認で苦戦している。ただこうしたメーカーはAVをテストする他企業へソフトウェアやハードウェアのソリューション提供へ戦略を転換しており、サードパーティ車両へのソリューション(ソフトウェアとセンサー)の導入、ハードウェアアーキテクチャの販売、システムのライセンス、トレーニング、および車両フリートのメンテナンスによる収益の創出が期待される。

自動運転技術には非常に高い製造コストが掛かるため、企業はコストを分担するためのパートナーシップを求めている。Waymoも独自技術の車両の試作品に1台あたり約150,000ドルの費用がかかっていたため、そのビジネスモデルを技術プロバイダーへと縮小した。2020年1月、WaymoはAVオペレーション強化のため人間の安全ドライバーを使い続けると述べ、複数の交通機関を運営する民間セクターのオペレーターであるTransDev North Americaとオペレーター契約を締結したと伝えられている。TransDevとの取り決めは、テストパイロットを乗せた車が事故に巻き込まれた場合に、潜在的な法的問題からWaymoを保護する可能性があると報じられている。ただしWaymoもTransDevも契約の構成要素についてコメントしていない。TransDevは、バスのドライバー、路面電車の車掌、およびその他の交通機関の労働者を空港や都市に提供しているため、WaymoはTransDevの専門知識に合わせてテストドライバーを供給する会社を選択できる。

2019年9月、FordのAV事業であるArgo AIのBryan Salesly CEOは、AVが「米国の道路ですぐに一般的になる可能性は低い」と述べている。霧の中や降雪中の車両操作など、AV技術の開発には克服すべき課題がまだ残っていると言う。同社はAV研究用センター、Carnegie Mellon University Argo AIを設立し、センターへの資金提供として5年間で1,500万ドルを拠出した。

これらは多くの企業がロボットタクシー立ち上げに向けた当初の楽観的な見通しを改めさせた課題のほんの一部である。すでに一部では研究開発(R&D)支出をロボットタクシーから長距離路線の貨物会社や自動運転商用車、AV技術供給に転換している。2019年11月、DaimlerのCEOであるOla Kallenius氏は投資家向け会議で、ロボットタクシーに対して「リアリティチェック」を行ってきており、ロボットタクシーに対する支出レベルを適正化することを明らかにした。

自動運転技術開発が直面しているもう1つの変化は、複数メーカーが使用できる拡張可能な車両アーキテクチャの導入と、コスト削減のためのAV技術の共有である。2020年1月、サプライヤーのAptivは、将来の車両の増大する電気的ニーズをサポートする新たなSmart Vehicle Architecture(SVA)を発表した。SVAはコストを削減し、ソフトウェアとハードウェアを独立させ、インテリジェントな抽象化、標準化されたインターフェース、拡張性を介したプラットフォーム間の再利用が可能になる。

Volkswagen Group(VW)は、AV技術を競合他社の共有とコスト分散を進んで取り入れている。AptivやHyundaiなど一部の企業は、レベル4および5の自動運転技術の商用化に向け、生産対応の自動運転システムの共同開発で連携している。IHS Markit自動車研究および分析を担当するEgil Juliussenディレクターによると、自動運転技術分野における重要なパートナーシップおよび合弁会社にはこの他、GMとホンダによるCruise AVを通じた協力(ソフトバンクからの投資も含む)、Argo AIに関するFordとVWの最近の発表、自動運転スタートアップ企業のAuroraによるHyundaiとFiat Chrysler Automobiles(FCA)の両方への関与、Mercedes-BenzとBosch、Mercedes-BenzとBMW、さらにIntel-Mobile、BMW、およびAptivによるFCAとContinentalも含むコラボレーション、Waymoと日本の日産、WaymoとフランスのRenaultなどがある。Juliussenは自動運転技術のパーソナル・モビリティ・ソリューションは2025年までに到来せず、最初は特定の領域、おそらくロボットタクシーが限定された領域にのみ到来すると予測している。


ユーザーの受容

ユーザーがAVを完全に受け入れるまでにかかる時間も課題だ。車両を人間が完全に制御するという考えは、世界的に根深い文化として深く染み込んでいる。AV技術に対する一般の人々の関心を高める2つの主な製品は、高度な運転支援システムとライドヘイリング企業の自動運転ソリューションである。


先進運転支援システム(ADAS)

TeslaやGMなどのメーカーは、ADASを通じてユーザーに自動運転技術を紹介し、コンピュータに車両の制御を委ねるという概念を浸透させている。Teslaのレベル2 ADASであるAutopilotには、8台の外部カメラ、レーダー1個、超音波センサー12個、車載コンピュータが搭載されている。標準Autopilotパッケージには交通認識用クルーズコントロールや、車両ステアリングを支援するオートステアなどの機能が含まれている。完全自動運転機能パッケージには高速道路のオンランプからオフランプへのアクティブな誘導、車線変更の提案、インターチェンジのナビゲート、方向指示器の自動作用、および車両の正しい出口への誘導に役立つナビゲート・オン・オートパイロット(ベータ版)、高速道路の隣接する車線への移動を支援する自動車線変更、車両の縦列または横列駐車を支援する自動駐車、車両を駐車スロットに出し入れする呼び出し、より複雑な環境をナビゲートする呼び出しの高度版であるスマート呼び出しなどの機能が含まれている。

GMのレベル2 ADASであるSuper Cruiseは、特定道路でのハンズフリー運転、ドライバーの車両と前方車両との間に選択的な車間距離を維持する高度なアダプティブ・クルーズ・コントロール、カメラとセンサーを使用してドライバーが指定した車線に車両を維持するのに役立つレーン・センタリングなどを提供する。GMは2020年1月、方向指示器をオンにする以外にドライバーからの入力なしで車線変更を実行できるSuper Cruiseの拡張版を発表した。これは、Lane Change on Demandと呼ばれる機能である。ドライバーが方向転換を開始して車線変更が必要であることを示すと、車両は指定された車線の許容できる開口部を探し、車線変更が差し迫っていることを他の車に警告する。

2017年、AudiはSAEによって定義されたレベル3自動運転(条件付き自動化)を備えたA8セダンを開発した。この場合、ドライバー(このレベルでの必須要件)は常に環境を監視する必要はないが、通知されたときの車両の制御を行う準備ができている必要がある。AudiのA8には、量産車に搭載された最初のレベル3自動運転システムであるTraffic Jam Pilotシステムが搭載されている。ハンドルから手を離したり、道路から目を離したりするなど、渋滞に注意を払う必要性から人間のドライバーを解放できるこのシステムは、停車と発車を含む交通状況において最高速度時速37マイルで中央分離帯のある道路にのみ配備できる。A8は、Traffic Jam Pilotシステムを無効にした状態での販売が許可されており、Automotive News Webサイトによると、2019年7月の時点でTraffic Jam Pilotシステムは米国では休止状態のままだという。Audiは、UNECEなど規制当局からの承認が必要なため、レベル3システムの作動は計画していない。

2018年10月、Mercedes-BenzとBMWは、前者のS-Classと後者のiNextが2021年にレベル3自動運転機能を搭載すると発表した。レベル3システムは、車両の所有権が常に環境を監視する必要のあるドライバーにあるレベル2と、所有権がコンピューターにありドライバーには車両を制御するオプションがあるレベル4の間の移行を示すため、自動車メーカーはかなり慎重なアプローチを取っている。TeslaのAutopilotやGMのSuper Cruiseなど、市場で現在入手可能なシステムはすべて、レベル2支援システムである。


ライドヘイリング企業の自動運転サービス

Uberは、Googleの親会社Alphabetの一部門であるWaymo、およびGeneral Motorsの子会社であるGM Cruiseとともに、米国でAVを開発している主要プレーヤーの1つと考えられている。Uberはすでに自動運転部門であるAdvanced Technologies Group(ATG)を介して、米国のPittsburgh、San Francisco、Dallas、Washington DC、カナダのTrontoで自動運転を行っている。同社の自動運転車には、特別に訓練された車両ドライバーであるミッション・スペシャリストが運転席に、副操縦士を助手席に配置し、高精細マップを開発し、シミュレーションや閉鎖環境のテストトラックで再現できるシナリオを捕捉することを目標としている。ATGの責任者であるAustin Geidt氏は「Dallasでは自動運転技術のために異なるタイプの道路網を探索する機会も提供されている。同市の近代的なインフラ、独特の交通パターン、道路の特徴、気候は、継続的なエンジニアリングの取り組みに新たな情報を提供してくれる」と述べている。ライドヘイリング企業は、さまざまな市場とシナリオをもってシステムを改善できるデータを収集している。Uberの自動運転オペレーションは2018年3月、アリゾナ州TempeでUberのテスト用自動運転スポーツ・ユーティリティ・ビークル(SUV)が自動運転モードにあり、安全ドライバーが乗っていたときに死亡衝突事故に遭遇したとき停止された。別のライドヘイリング企業であるLyftには、400人のエンジニアを雇用している自動運転車研究所がある。2019年11月、Lyftはカリフォルニア州East Palo Alto(米国)にAVテスト加速を目的とした2番目の施設を開設すると発表した。新施設はレベル5エンジニアリング・センターと呼ばれ、Lyftの現在のAV開発本部に近接しており、交差点、信号機、道路の合流、歩道、その他の公道の機能が含む。LyftはAptivと提携し、2018年5月以降75,000回以上のライドを完了したネバダ州Las Vegas(米国)で自動運転ライドヘイリングサービスを提供している。2019年5月、LyftはWaymoと提携、アリゾナ州PhoenixでライドヘイリングサービスにAVを導入した。OEM、サプライヤー、およびテクノロジー企業の意思決定者が急速に進化する環境を理解するのに役立つ幅広い製品とツールを提供するために、IHS MarkitではAVおよびライドヘイリング分析動向を把握している。その一例が当社のライドヘイリング料金トラッカーである。


ライドヘイリング料金トラッカー

ライドヘイリング料金トラッカーは、世界のライドヘイリング企業の料金トレンドをマッピングしている。7地域を15市場に分類し、平日の固定時間帯(10:00〜12:00)の固定ルート料金の測定値を収集している。料金は四半期内の3つのランダムな日付の平均値(チップは含まず)だ。料金トラッカーの測定値には異なるクラスのライドヘイリングが考慮され、バジェット(利用可能な最低価格のオプション、通常はBセグメント乗用車)、ラグジュアリー(Eセグメントのリムジンタイプのサービス。通常、プレミアムカーブランドを通じて提供)、プール(シェア型のライドヘイリング、ライドシェアリング)、プレミアム(プレミアムブランドが製造したDセグメント以上の車両。成長市場では、たとえば主流ブランドは3年以内である可能性があるなど、サービス提供が異なる場合もある)、スタンダード(モバイルアプリにあらかじめ設定され、通常4ドアのCセグメント乗用車以上である最も一般的なサービス提供)、タクシー(タクシー・アプリケーションを介して利用される従来のタクシーサービス。アプリケーションなしで呼ばれる車両は含まず)が含まれる。

下図はスタンダードクラスのライドヘイリングの平均コストを示すマップで、料金はNew Delhi(インド)の0.41米ドル(キロあたりの料金)からNew York City(米国)の4.09米ドルまでの範囲にある。


展望と影響

各国政府は、テストやパイロットプロジェクトによる技術進歩を妨げることなく、AVをより安全にする規制導入のための適切なペースを見つける必要がある。AVの自動車保険がどのように規制されるか、どの企業が純粋なAV企業であり続けるか、どの企業が技術サプライヤーになるかはまだ分からない。AVが安全な移動手段として(個人用であれ、乗車サービスであれ)どのタイミングで社会から受け入れられるのか、人間が車両の制御を高度なコンピュータプロセッサに明け渡す意思があるかどうかはまだ分からない。

自動運転車には高齢者や社会的弱者など、幅広い人々に低コストのモビリティソリューションを提供し、生活をより便利にし、仕事やレジャーへのアクセスを改善できる可能性がある。安全性の向上、渋滞の緩和(移動時間の短縮)、排出量の削減、燃料消費の低減(加速と減速の円滑化による)ももたらす。公共交通機関を補完することにより、ファーストマイル、ラストマイルの問題を解決する可能性もある。その結果、すべての先進国と発展途上国で、ライドヘイリング車のドライバー、商品配達のドライバー、トラックのドライバーを含む大きな雇用カテゴリーを本質的に排除する可能性もある。また専用車線、明確な標識、特定の専用または適応型高速道路などの都市環境を開発するよう地方自治体にさらなる圧力をかけることにもなる。

担当アナリスト:Tarun Thakur

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