カーボンニュートラル経済への取り組みで加速する自動車産業の再構築

2021年4月14日 Reinhard Schorsch

現在議論されている規制により、欧州でのBEVシェアは2030年までに50%以上に、中国と米国では、BEVシェアがそれぞれ40%と25%に達する見通し

多くの国が2050年までのカーボンニュートラル経済達成を約束している(中国は2060年まで)。IHS Markitはこうした最新動向を綿密に追跡し、目標達成に必要となる交通輸送部門の変革に関する新たな分析を提供している。

目標達成のためには、交通輸送部門において期限内に稼働車両の多くをバッテリー式電気自動車(BEV)またはゼロエミッション車(ZEV)に変える必要がある。さらに内燃機関(ICE)車とハイブリッド車の販売を目標期日の少なくとも10年前に段階的に廃止する必要があり、多くの市場は遅くとも2040年までに純粋なBEV/ZEV販売市場になる(ごくわずかな例外を除く)とIHS Markitは推測している。

欧州は、規制の観点からこの変革の先駆者である。正式合意はまだだが、EU全体で2040年またはそれ以前までにICEが段階的に廃止されるとIHS Markitでは予測している。事実、EU加盟国のうち9ヵ国は2035年またはより早いタイミングに向けて公にロビー活動を行っている。OEMの新たなCO2削減目標では、2021年水準で(現在の37.5%ではなく)55%削減が見込まれている。そこに到達するには、2030年までにBEV/ZEVの販売台数が50%を超える必要がある。CO2削減目標やEU7基準に関わらず、ICEの時代は2035年から2040年の間にBEVの時代に置き換えられるだろう。一方、移行技術としてのハイブリッド車の機会は短期である。一部の国々はEU全体の規制とは独立した独自タイムラインにあり、事実上のICE廃止に向けたEU法規制に沿った選択肢をいくつか揃えている。ノルウェーは2025年までの目標達成に向け、長年にわたり高額なICE税とBEVインセンティブを用いてきた。オランダは2030年までの目標達成に向け、低排出ゾーン策に頼ることになるだろう。EU離脱後の英国は、既に発表している2030年以降のICE禁止令を導入するにあたり移行段階では特定のハイブリッド車を例外とできる。

規制面で中国は欧州からわずか数年遅れている。IHS Markitは、新エネルギー車(NEV)の販売目標が2030年までに約40%、2035年までに50%超、遅くとも2050年までに最大100%になると予測している。2030年までに3L/100km、2035年までに2L/100kmに向けた追加CAFC目標(WLTCテストプロトコルによる)は、NEVと並んで最も燃料効率の高いハイブリッド車のためだけには余地を残している。

米国は2026年まで、SAFE車両規則(Safer Affordable Fuel-Efficient (SAFE)rule)に縛られる。2027年以降、バイデン政権は少なくともオバマ政権下のものと同程度に厳格なMPG改善水準に戻るとIHS Markitは予測しており、これはCaliforniaを含む5州が2035年までにICEを禁止とすることを前提としている。こうした仮定の下、BEV/ZEV新車販売シェアは2030年までの25~30%から2035年までに45~50%となると予測される。

OEMは、BEV以外のプラットフォーム、車両、パワートレインの複雑さを許容する余地を減らし、電動化計画を加速する。

IHS Markitの分析では、前述した今後の規制では、2030年までに欧州で50%以上、中国で40%以上、米国で25%以上のBEV販売シェアが少なくとも必要になる。これによりOEMは、テクノロジー、プラットフォーム、車両、パワートレインの各戦略の詳細な見直しを迫られる。また、BEV成功に必要な投資と、その投資をサポートする金融市場の観点からも取り組みを進めることになる。

IHS MarkitのOEMプランニングソリューション担当ディレクターであるReinhard Schorschは「規制市場の主要OEMの役員はBEVロードマップの加速化、あるいはBEVへの完全移行という意思決定への転換を迫られている」と述べている。

結果として、Jaguar、Volvo、Mini、Bentley、Ford Europeの各社が、2030年までにBEVブランドになる意向を発表した。他ブランドもBEVを主要パワートレインシステムとすべく努力しており、これにはPorsche(80% BEV)、VW Europe(70% BEV)、Land Rover(60% BEV)、BMW(50% BEV)、Kia Europe(50% BEV)などが含まれる。テールパイプエミッションを完全にゼロにするというGMの願望など、2035年に向けたBEV関連の発表はこの文脈では自明のようだ。

規制が少ないまたは規制のない市場で販売量が大きいOEMは、BEVへの移行を依然として躊躇している。トヨタのような大手企業にとっては時間の問題だけかもしれないが、その他の企業はBEVサプライチェーンの確立と確保が遅すぎると不確実なICEの世界に取り残される可能性がある。

規制がBEV/ZEVへの移行を強制し、OEMは規制へ準拠、あるいはそれ以上の計画を立てるが、それには市場と顧客の準備が整っている必要がある。

Schorschは「価格と総所有コストが移動に対する予算と一致し、実航続距離がと実際の使用状況を満たし、消費者が充電について心配することがなくなったとき、BEVに対し幅広い消費者の受け入れと準備が整う」と述べている。

インセンティブにより、BEV、ICE、ハイブリッド間の理論価格の同等性は今日ほぼ実現している。インセンティブがなくなれば、OEMはBEVのコストと価格の引き下げによってそれを補う必要があるが、おそらく同程度にはならないだろう。既存OEMは台数より利益を優先することから、ICEの価格は上昇する可能性がある。最終的にコストリーダー(おそらく既存OEMではない)が正確なBEVの価格レベルを自由に決定できるようになる。IHS Markitでは、全体として2030年までにBEVの価格は需要を制約する障害にはならないと予測している。

BEVの航続距離は向上し続けており、大半の場合、消費者を制限するものではなくなっている。顧客はICEが提供する走行距離に慣れているが、それはほとんどの日常的使用で必要な距離をはるかに上回っている。過去10年間でリチウムイオン電池技術の進歩とともに大幅なコスト削減がもたらされた。次の10年間には、全固体電池の標準化にともなって航続距離の大幅な向上がもたらされる見通しだ。結果として、「航続距離不安」の問題は2030年までに解決されるとIHS Markitは考えている。一方、より広い室内空間、楽しい運転性能、新たなソフトウェアとアプリケーションを備えたBEVが、多くの消費者にとってのBEVの魅力を高め、セグメント構造と差別化基準を再構築するだろう。

充電インフラは、それぞれの市場で重要な懸念要素として残る。時間の経過とともに解消される可能性があるが、その開発速度が需要を推進する他の要因と歩調を合わせるかどうかはまだ分からない。

規制された市場での方向性は明らかだが、今後の道筋はまっすぐではない。

カーボンニュートラル経済へのコミットメントは履行され、その結果としての規制が実施されるだろうか? OEMの加速度的な電動化計画はサプライチェーンによって支えられ、BEVは同じ時間枠で顧客の期待に沿えるだろうか? 一般的な問いに対する答えは明白かもしれないが、詳しい問いに対する答えには依然、リスクが伴う。しかし現時点では、BEV時代に備えることはそれを見逃すよりも低リスクだと言える。

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