V2X向けDSRC存続のカギは、次世代技術開発

2020年8月5日

環境に優しい資源の利用推進にともない、自動運転とコネクティビティが大きな飛躍を遂げている。この推進の基礎となるのはVehicle-to-everything(V2X)通信と呼ばれる技術であり、その一部としてVehicle-to-Vehicle(V2V)、Vehicle-to-Infrastructure(V2I)、Vehicle-to-Pedestrian(V2P)、Vehicle-to-Network(V2N)などの通信技術がある。

V2X通信には専用狭域通信(DSRC)とセルラーV2X(C-V2X)の2つの標準がある。DSRCはIEEE 802.11p標準に基づき、高速で移動する物体を対象とし、物体が見通し域内になくても信頼性の高い無線リンクを作成する。DSRCはセルラー接続無しで車両とインフラの間の安全な高速通信を可能にする。

C-V2Xは、第3世代パートナーシッププロジェクト(3GPP)によって2016年に標準化された携帯電話ベースの技術である。この技術はLong-Term Evolution V2X(LTE-V2X)通信を使用するが、低遅延という特性を備えた5Gの登場は、すでにトライアル段階で見られたように、今後に大きな変化をもたらすだろう。

それぞれ車両、インフラ、歩行者/自転車走行者間のリアルタイムコミュニケーションという目的は同じだ。インフラに関しては、どちらもカメラと信号機に依存している。ともに5.9 GHz帯域を使用する。どちらの場合も無線機間の直接接触はないが、各無線機は他の電波を同時に傍受しながら、車の位置と速度を送信する。前述の通り、簡単に言えばC-V2Xは本質的にセルラーベースのシステムだが、DSRCはWi-Fiのようなものである。DSRCはWAVEと呼ばれるワイヤレス規格を使用、C-V2XはLTEを使用しており間もなく5Gを使用することになる。DSRC無線はC-V2X無線と通信できず、逆も同様である。DSRCの範囲は1 kmまでカバーできるが、多くの場合、到達可能範囲は400〜500mである。LTE-V2XはDSRCよりも高い水準の範囲をすでに示しており、障害物があるエリアでより優れている。5Gの導入により、LTE-V2Xの機能は向上する。ただし、安全性が重要な用途の場合、DSRCはLTE-V2Xよりも効果的であることが実証されている。これは、0.1秒未満と非常に高速なためである。

DSRCとC-V2Xの機能と使用例の比較
DSRCC-V2X
安全で信頼性の高い専用ライセンス帯域幅で、主に車両安全アプリケーションに割り当てられる相対速度が速い場合(最高500 km/h)の適合性と状況認識の向上のため反応時間が長い
高速ネットワーク取得により、通信の即時確立と頻繁な更新を必要とするアクティブセーフティ・アプリケーション機能の最適化が可能低周波数帯域を使用して提供される既存セルラーネットワーク範囲の活用によりV2Nの対象範囲が広い
アクティブセーフティ・アプリケーションが相互認識し、ミリ秒単位でメッセージを遅延なく送信するための低遅延性(~2ミリ秒)を提供独立運営される路側インフラを構築せず既存のモバイルインフラを使用することでインフラ配備を削減
DSRCの安全アプリケーションは非安全アプリケーションより優先されるV2VとV2Nのモジュールは単一のC-V2Xチップセットに組み合わせ可能
相互運用性を確保。これは広く採用されている規格を使用したアクティブセーフティ・アプリケーション配備成功のカギであり、V2VとV2Iの両通信をサポートするインフォテインメント、交通情報、リアルタイムマッピング、テレマティクス、データ分析など、複数のビジネスモデル活用の可能性
安全メッセージ認証とプライバシーを提供5Gへの将来展開が確実なため早期導入とアフターマーケット導入が促進される
通信サービスへの加入は不要狭域アプリケーションと広域アプリケーションの両方をカバーする機能を含み、配備の柔軟性が高い

1999年、米国FCCはDSRCに5.9 GHz帯域の75メガヘルツ(MHz)幅を割り当てた。ユビキタスな輸送と車両関連の通信を可能にすることを目的としていたが、昨年12月にFCCは5.9 GHz帯域をWi-FiとC-V2Xの用途に分割することを決定している。FCCはDSRCが過去20年間の進化が遅く、結果が意図と一致しないと主張している。問題の75 MHzのうち、Wi-Fiなどの免許不要使用のために帯域の低い45 MHz幅を割り当て、C-V2X使用に20 MHzを割り当て、残りの10 MHzをDSRCシステム用に保持するかC-V2X専用とするか審議することを委員会は提案した。

この決定は、Intelligent Transportation Society of AmericaやAmerican Trucking Associations、Commercial Vehicle Safety Allianceといった貨物・旅客輸送セクターの組織が主導する米国の運輸団体から反発を受けた。American Trucking Associationsは、FCCの提案が交通事故数の削減、車両安全性の改善、交通システム全体の混雑緩和という意図を損なうと述べた。NXPは白書で、DSRCまたはC-V2XのいずれかがV2Xの新たな使用事例に対応するには30 MHzでは不十分であると述べている。FCCに対する規制の申し立てと今年4月の米国運輸長官への書簡で、Alliance for Automotive Innovationは、C-V2XとDSRCによる5.9 GHz安全帯域の使用方法に関する計画を提案した。最初5年間の計画によると、LTE C-V2Xは上位20 MHz帯域でのみ使用され、DSRCは下位20 MHz帯域でのみ動作する。残りの30 MHzは、次世代のDSRCおよびC-V2Xアプリケーションで優先的に利用できるようになる。ただし、同Allianceは、5年目には将来の5.9 GHz帯域全体の使用が許可される単一技術(DSRCまたはLTE C-V2Xとそれぞれの将来バージョン)を選択するプロセスが実施されると述べている。「単一技術が選択された後、10年間の段階的廃止期間が続く。それにより、優勢でない技術は、上位または下位いずれかの帯域で当初の専用20 MHz割り当てを保持する。この10年間の段階的廃止後、選択された技術は5.9 GHz帯域全体に完全にアクセスできるようになる」と同Allianceは書簡で提案している。

Volkswagen(VW)、Hyundai、General Motors(GM)はDSRC支持派の大手である。VWは昨年、NXPのチップセットを使用した802.11pベースのV2Xを標準装備した第8世代Golfを発売した。Hyundaiは、2021年にGenesis G90にDSRCベースのV2X通信機能を配備し、次の新モデルにも配備を拡大する計画を発表した。同社はまた、C-V2Xシステムの開発にも投資を続けると述べている。Cadillacは、2017年にCTSセダンにDSRCベースのV2Vシステムを導入した。その翌年、GMはポートフォリオ全体に技術を拡大し、2023年までに新モデルにV2X通信を搭載する計画を発表した。ただし、一部の大手企業はC-V2Xにより多く投資している。Audiは、2020年に中国本土のHuaweiと共同で5GベースのCV2X技術を導入し、Qualcommと共同で5.9 GHz帯域ベースのC-V2X技術を展示する計画を発表した。2018年7月、BMWは車両へのC-V2X機能組み込みでQualcommと提携、2021年にVision iNEXT フル電気自動車(EV)にまず配備する見通しである。Fordも、2022年から米国で同社のすべての新車にC-V2Xを搭載することを発表した。FCCの最新提案とDSRCを取り巻く不透明感により、自動車メーカーの戦略策定は今後興味深くなるだろう。Reutersは昨年、トヨタ自動車が米国でDSRCの使用計画を中止したと報じている。

COVID-19の発生は業界に大きな混乱をもたらした。5GはV2Xを巡るパズルの最後のピースと見なされているが、その配備はパンデミックのせいで遅れるだろう。3GPPの5G標準の開発とリリースが遅れている一方、5G帯域ライセンスの一連のオークションも延期された。IHS Markitでは、これらの要因によりV2X配備率は世界で15%低下すると予測している。遅延の主な原因は5G、この場合はC-V2Xであるため、DSRC支持派にとっては一息つく時間ができることになる。DSRCはすでに20年前から存在しており、その技術とインフラははるかに進んだ段階にある。

5GベースのC-V2Xシステムの利点は明らかだ。C-V2Xは、安全性、ナビゲーション、統合輸送システムをサポートし、すべてのV2Xアプリケーションにエンド・トゥ・エンドで対応するが、DSRCとは異なり、拡張性があり、さらなる開発も可能である。C-V2Xの支持基盤も広がっている。5GベースのV2X通信の定義を支援する業界横断コンソーシアムである5G Automotive Association(5GAA)は、自動車業界で5Gの使用事例を常にテスト、開発してきた。重要な要素は、C-V2Xが自動車メーカーだけでなく通信事業者や機器企業にも支えられていることだ。遅れのせいで自動車メーカーが一時的にV2X戦略を変更する可能性はあるが、業界は標準化されたC-V2Xの採用に移行する可能性が高い。ただし、5G展開の遅延とその後のC-V2Xテストの延期により、ドライバーにとって安全で信頼できることが実証済みの代替技術に対するニーズが示されている。少なくとも5GベースのC-V2Xが問題なく開発されるまで、2つの技術が共存し続けることは理にかなっている。AutotalksやApplied Informationなどの企業は、DSRCとC-V2Xの両方に使用できるデュアルモード・ハードウェアを開発してきた。FCCは最近、インテリジェント交通サービスのApplied Informationに対し、インフラと車両でのDSRC使用のため5.9 GHz帯域幅のライセンスを供与した。

「自動車業界が米国で命を救うV2X技術の配備に取り組んでいることは素晴らしい。ただし、どの技術が普及するかについては依然として不透明だ。デュアルモード・チップセットの採用によって標準化戦争は終わる。これにより、勝ち目のない技術への賭けにともなうコストが削減される。ひとたび1つのV2X技術が選択され、選択された技術に合わせてデバイスが構成されると、V2Xネットワークから取り残される車はなくなるだろう」とAutotalksの最高技術責任者(CTO)兼創業者のOnn Haran氏は述べている。