米国のEVシフトに必要なのは

2021年11月5日 | Kevin Adler

内燃機関(ICE)からのシフトは、電気自動車(EV)の新モデルだけではなく、インフラ、製品サプライチェーン、労働力開発、消費者教育、値頃感などのすべてを考慮に入れる必要があり、未来の実現は業界と政府の協力次第だ――米国最大の自動車業界団体であるAlliance for Automotive Innovationが主催した2日間のAuto Innovation Summitが指摘した。

8月にBiden政権は、2030年に米国で新たに販売されるライトデューティ車の40〜50%をゼロエミッション車にするという目標を発表した。「大統領、全米自動車労働組合、自動車メーカー3社(Ford、GM、Stellantis)の幹部、環境保護主義者が同じ目標を掲げて立ち上がる、これは変革の瞬間だった」と米国下院議員(民主党・ミシガン州)のDebbie Dingell氏は言う。

Biden大統領はまた、連邦政府が2030年までに全国でEV充電器50万台の設置を支援することを約束した。

過去2年間の暴風雨と記録的猛暑によって、気候変動にかつてないほど注目が集まっている。米国の年間GHG排出量の約29%を自動車交通輸送が占めることを考慮すると「自動車産業への投資と労働者支援のための政策に、今ほど重要な時期はない」と同氏は言う。

General Motorsは特にバッテリーEVに多大な貢献をしてきた、とGM最高持続可能性責任者であるKristen Siemen氏は述べている。Siemen氏は「誰もがEVに乗る未来が見える。GMにとってこれはバッテリーEVを意味する」と述べた。


席に座らせること

公益事業Southern. Co.の電動化政策マネージャーであるLincoln Wood氏は「重要なのは席に座らせることだ」と言う。「EVに乗せてその運転がどのようなものかを体験すれば、誰もが夢中になる」。Southern Co.はEVに関する教育ビデオをオンライン配信で提供しており、EVの試乗と質問ができる対面イベントを後援している。同氏が毎回のように受ける質問の1つは、家庭での充電のコストについてである。Sothern Co.が提供する割引制度を利用した場合、料金は月額19〜20ドルと見積もられるが、これは自動車に燃料を満タンにするコストをはるかに下回る。

事実、今年のガソリン価格上昇でEVがより魅力的に感じられるようになっている。米国のガソリン価格は全国平均で1ガロン当たり3.50ドルとなっており、EVが同等のICEモデルより8,000ドル高いと仮定すると、政府の購入インセンティブやメンテナンスコストの削減がなくても、年間10,000マイルを運転する人の場合、7.3年でコストの回収が可能だ。ただし高額な初期価格という難関を乗り越える購入者を獲得するのは難しいため、Dingell氏は購入者に対する税額控除を継続して提供するという連邦政府と州政府の役割は重要だと強調する。

Morgan Stanleyによれば、2万ドル未満のEVが入手可能になると市場は「相当なもの」になるという。


充電ネットワーク

消費者がガソリンで享受してきた利便性を失うことを恐れることのないように、サービス提供のカギとなるのが充電ステーションだ。Siemen氏によると、GMはすでにEV投資の一環として米国の50,000マイルにおよぶ高速道路への充電器設置に資金を提供しており、同社ディーラーは必ずEV充電ステーションを備えるようにしているという。

Southern Co.は電力ネットワークに対する新たな需要にうまく対応する必要があると述べ、家庭での充電については午後遅くにピークに達する傾向がある負荷のバランスを取るため、夜間充電向けにインセンティブを提供している。また同社は全国的な公共充電ネットワーク構築のための取り組みを調整している、米国の電力会社連合にも参加している。

IHS Markitでは、2050年の新車市場におけるEV販売台数シェアは25〜40%になる可能性があると見ている。Biden政権の目標には足りないものの、直近の数値が4.5%であることを考えれば大きなステップアップである。2030年の販売レベルは「充電インフラとグリッドの準備が整っているか次第だ」とIHS MarkitのバイスチェアマンであるDaniel Yergin氏は述べている。「サプライチェーンについてももっと真剣に考えなければならない。そして、大衆の支持も重要だ」。消費者の意思決定に影響を与える、より大きな政治的意思または他の要因がある国々はEVへの道をさらに進んでいる、とYergin氏は言う。たとえば中国ではEVが新車販売の14%を占め、一部のヨーロッパ諸国では20〜21%に達している、と同氏は述べている。


サプライチェーン

Yergin氏が指摘するように、サプライチェーンは今日の自動車メーカーにとって、特にEVバッテリーと半導体がデリケートな問題となっている。Dingell氏は、中国が世界のバッテリーセル製造能力の約75%を占めていることを指摘、これは「国家安全保障の問題」だと言い、米国で将来何台のEVが製造されるかを決定する重要な要素だ、と述べている。

9月にFordはMichigan州にバッテリー研究センターを建設する計画を発表したが、これは電気自動車版FシリーズトラックとFordおよびLincoln用バッテリーを生産する、Tennessee州とKentucky州の新たな製造センターを補うものだ。Fordとそのパートナーである韓国のバッテリーメーカー SK Innovationの間では、114億ドルの投資が行われている。

Dingell氏は「電気自動車をどこで、どう製造するかに関する重要な決定が下されようとしている」「我々は、ここアメリカでの製造を見たい」という。

米国半導体工業会の会長兼CEOであるJohn Neuffer氏は、政府の支援はEVバッテリーという明白な分野だけにとどまらないと言う。2022年度予算調整法案とインフラ法案を合わせて、研究開発(R&D)、材料調達、その他のニーズで米国の半導体チップメーカーを支援する資金が520億ドルになる可能性があるが、それでも十分ではないと同氏は語っている。

米国商務省副長官のDon Graves氏は、政府はいま、資金提供以外にもサプライチェーンへの取り組みを支援する措置を講じていると発言した。商務省はサプライチェーンに影響を与える可能性があることについて早期警告情報を提供する新システムを設定した。この情報を使用して、企業は中断への対応時間を短縮することができる。長期的には商務省などがチップメーカーによる「より良い投資、よりスマートな投資の実行」を支援でき、米国には「レガシーチップ」のメーカーと最先端チップの研究開発の強力な基盤があることからレガシーチップの性能向上は自動車産業と経済全体にとって価値があると述べている。

一方でNeuffer氏は自動車業界からの需要がチップ業界に新世代チップの設計を促していると見ている。レガシーチップと新世代チップの両方が生産されると「(サプライチェーンの)回復力が高まるだろう」とNeuffer氏は語る。


大きなチャンス

正しく実行されれば、EV革命は大きなチャンスを生み出す。Travis氏が引用したカリフォルニア大学バークレー校の最近の研究では、Biden政権の2030年EV目標を達成する推進力により200万人の雇用が創出されると推定されている。さらにICE車が道路から排除されれば、EV革命は公衆衛生にもプラスの影響を与えるとTravis氏は述べている。

石油からの移行に取り組んでいるグループ、Securing America's Future Energy(SAFE)の会長兼CEOであるRobbie Diamond氏は、強力で環境に優しいサプライチェーンの構築は、米国にとってチャンスであるだけでなく不可欠であると述べている。「トップに向けた競争を起こさなければ、底辺に向かう競争が生まれ、中国が勝つことになる」と同氏は語る。「環境基準と人権基準に価値を置き、遠方(中国)の鉱物について透明性を確保しなければならない」。

Obama大統領が交渉した環太平洋パートナーシップ(TPP)への加盟を上院が承認しなかったとき、米国は新興技術で中国と競争する大きな機会を逃したとシンクタンクThird WayのシニアレジデントフェローであるEllen Hughes-Cromwick氏は言う。Trump大統領はTPP加盟の再検討を拒否し、結果として中国はこの11カ国協定への加盟を模索している。これは「我々の不利益をさらに助長するだろう」と同氏は述べている。

自動車、バッテリー、エネルギー転換の重要な側面に関しては、米国の産業と政府にとって中国は懸念事項になるだろう、とYergin氏は重ねて言う。同氏はObama政権が使用した中国との「協力」と「関与」という言葉を、貿易紛争やその他の対立の高まりに伴いTrump政権とBiden政権が使用している「競争」などの言葉と対比させている。中国は主要材料を手中の収めている(たとえば世界のリチウムイオンの80%)ように見えるうえ、主要製品も支配している(世界のソーラーパネル製造能力の約80%)ため、この競争はなくなることはない、とYergin氏は語る。また中国にとってEVへの急速なシフトは不可欠である、と同氏は言う。ICEエンジンを過去のものにすることで、都市の大気汚染を浄化し、低炭素の未来に向けて進むことができる。同国の石油需要の75%を供給する輸入石油のニーズも減るだろう。そして、中国は主要技術分野で米国と欧州を「飛び越える」ことができる。「彼らの戦略の非常に重要な部分であることは間違いない」と同氏は述べている。

米国政府は、気候上の理由と同様に競争上の理由からも自動車産業の移行の支援を検討すべきだとYergin氏は言う。「世界的な競争の文脈で見なければならない」「科学(そして)人工知能に関して言えば、その競争は今、そこにあるのだ」。


掲載日:2021年11月5日 執筆者:Kevin Adler(IHS Markit 気候および持続可能性グループ エディター)

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